金融庁が企業価値担保権の基本方針を発表~債務者区分にも影響
- あいおい法務行政書士事務所
- 6 日前
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金融庁は「企業価値担保権」を設定した事業者の将来・定性情報を「債務者区分」の判定時に反映できるとの考え方・基本方針を示しました。R7.5.17
企業価値担保権付き融資では、メイン銀行1行との取引を念頭に置いた緊密な関係をベースとして、継続したモニタリングや迅速な経営改善支援が可能になるとしています。
そうすることにより、将来の経営困難状況になるリスクを低下させることで、貸倒引当金の算定に使われる「予想損失率」が低くなれば、従来の「債務者区分」の判定にも好影響を与えられる可能性が出てきます。
【情報の反映手法が焦点になる】
2026年春頃に始まる「企業価値担保権」を活用した融資では、事業者の将来キャッシュフロー(CF)を含んだ事業全体の価値(総財産)を「担保」として設定できます。
ですので、土地・建物・動産といった有形資産が乏しい新興企業などは、融資を受けやすくなるメリットがあります。
金融機関(銀行等)側でも、事業の成長・発展による担保価値を高めるため、より深度ある実態把握や伴走支援が求められることになります。
金融庁は4月28日、企業価値担保権付き融資の評価や引き当ての算定に関する基本的な考え方(基本方針)を整理したペーパーを公表しています。
企業価値担保権付き融資は、従来の「不動産担保付き融資」とは異なり、その評価や引き当て方法がまだ定まってはいません。同庁は「企業価値担保権の特性を十分考慮し、合理的な取り扱いを考える必要がある」と明記しています。
この部分の焦点となるのは、企業価値担保権付き融資の活用をするにあたり、将来・定性情報をどのように「債務者区分」の判定に反映するか?です。
一般的に、債務者区分の判定は、事業者の財務情報(会社の決算・財務状況や融資返済状況など~定量情報)に基づいて決定されます。
金融機関(銀行)側は、その財務情報や返済能力などを基に、債務者(会社)を「正常先」から順に「要注意先(要管理先を含む)」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」の実質6段階に分けて、融資するかどうかの可否・条件を決めます。
区分先が高いほど、つまり「正常先」に近いほど好条件で融資を受けられ、「破綻先」に近いほど貸倒引当金の計上額が大きく、融資を受けることが困難になります。
従来は、事業者の将来・定性情報を旧金融検査マニュアルを基に形式的・保守的に反映して判定していましたが、企業価値担保権付き融資では、事業者の将来の見通しや技術力を基に、債務者区分の判定の際に適切に反映することが可能となります。
同庁が参考として挙げた手法の1つが、有形・無形資産の「総財産」を担保にして融資を行うことが慣行として根付いているアメリカのケースです。
メイン銀行1行取引が主体のアメリカでは、融資債権ごとの回収可能性に加えて、当初から将来キャッシュフロー(CF)などの定性・将来情報を反映させて融資するやり方ですが、回収可能性を見積もる具体的な判定基準や予想損失率の検討が新たに必要となるので、日本の金融機関が採り入れるにはハードルが高い(同庁)と見られます。
本命は、従来の日本における「貸倒引当金の見積もり方法」をベースとした手法で、企業価値担保権付き融資を活用する場合、債務者区分・格付けの振分けの段階で、従来の融資とは別枠で管理し、そのうえで、財務情報(定量情報)に加えて、事業の見通しや経営方針などの「将来・定性情報」を債務者区分の判定に反映する形が想定されています。
金融機関(銀行等)が、企業価値担保権付き融資先の企業と日頃から緊密な関係を築き、事業実態などを的確に把握し将来キャッシュフロー(CF)で今後十分に融資を返済できると判断した場合は、「要管理先」「破綻懸念先」段階から「正常先・要注意先」とすることが合理性のある取扱いとなる(同庁)と記しており、融資困難な状況から一転、融資可能と判断できるという可能性を示唆しています。
また、債務超過の「破綻懸念先」であっても、事業者と銀行が緊密な関係を築く中で、今後の事業の見通しが立つ場合には、債務者区分の判定でもそれを考慮すべきとしています。
今後の企業価値担保権付き融資の普及には、事業の成長性や将来キャッシュフロー(CF)を見極める行職員の「目利き力」向上が欠かせないとしています。
金融庁はヒアリングを通して、企業価値担保権付き融資に取り組む金融機関のモニタリング体制の整備・運用状況を確認し、債務者区分の判定と貸倒引当金の算定が、自ら定めたルール通りに実行されているか等についても、継続的に対話していく見通しとしています。
※ニッキンonline 行政・政策のニュース一覧より抜粋
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